Neil and Rush and Me

Neil PeartのドラムとRushの音楽をこよなく愛する大学教員の日記(雑記)帳です。

invitation letter & 記者懇談会概要

事務担当者Vanessaさんのご尽力もあって、University of Sydneyから超特急でinvitation letterが届いた。ありがたい。sponsorship letterのほうはもうしばらく時間がかかる模様。待ち遠しい。

今日は記者懇談会(3月11日)の報告概要(A4で1枚)の作成・提出締め切り日。内容的には昨年6月に担当した市民講座の内容を改変したものになる予定だが、その時は概要の作成を求められなかったので、今回新たに作成することになった。こんなものを書いて、担当部局に提出した。

【概要】  「日本農業は生き残れるか ―マルサスとTPP― 」

私の専門は「経済学史」(「経済学説史」「経済思想史」とも呼ばれます)です。名前が似ているために「経済史」と混同されがちですが、両者は異なる学問分野です。「経済史」が産業革命世界恐慌など経済現象それ自体の歴史を研究するのに対して、「経済学史」はマルクスケインズなど過去の偉大な経済学者の理論や思想を研究します。私は、過去20年にわたり、18世紀後半〜19世紀前半に活躍したイギリス人経済学者トマス・ロバート・マルサスを研究してきました。マルサスは高等学校の『政治・経済』の教科書にもその名前が登場する、たいへん著名な人物です。「イギリスの経済学者マルサスは、『人口の原理』(1798年)で、食糧生産は人口増に追いつかず、過剰人口による貧困と悪徳が必然的に発生すると説いた」、「19世紀前半、イギリスのリカードは、工業品だけでなく農業の自由化も主張して、農業保護を唱えるマルサスと対立した」などと教科書には記されています。

なぜ過去の偉大な経済学者の考え方を学ぶ必要があるのでしょうか? なぜ最新の経済学を学ぶだけでは不十分なのでしょうか? それは、経済学においては相対立する多くの諸学説が同時に併存していることが常であり、しかも、最新の理論が古い理論より常にすぐれているとは限らない(一度は滅びたかのように思われた理論が時代状況の変化とともにしばしば復活する)からです。別の言い方をすれば、歴史にその名を残す大経済学者が大経済学者たるゆえんは、彼らの経済学説が時の試練を耐え抜いて、今日の経済問題を考えるためのヒントを依然としてその中に多く宿しているからなのです。

この報告では、マルサスの知的営為をたどりながら、21世紀の日本に生きる私たちが彼の理論と思想から何を学ぶことができるのかについて考えてみたいと思います。具体的には、マルサスの経済発展論に着目して、昨今の国論を二分しているTPP(環太平洋戦略経済連携協定)の加盟交渉への参加をめぐる論議についての理解を深めたいと思います。

この懇談会には大手新聞社の記者だけでなく学長も同席される。「本人にとってきっと貴重な経験になるだろう」と思い、僕の判断で(もちろん許可はとりましたが)ゼミ生に一緒に登壇してもらい、卒論をプレゼンしてもらうことにした。4月から大学院に進学するOさんで、タイトルは「脱ゆとり教育と二段階の学び〜J.S.ミルの教育思想を手がかりとして〜」である。ラッキーなことに、経済学会の学生懸賞論文でも3等に入選した力作である。

明日は帰りが遅くなることもあり、一日早い桃の節句を家族三人で祝う。娘のすこやかな成長を願ってやまない。

【5635】