Kwansei大学にて経済学史研究会。今回は大学院の大先輩でもあるT本先生の新著『『国富論』を読む』の合評会で、僕とO山大学のN村先生が発題者を務めた。*1
これまで様々な研究会・学会で研究報告を行なってきたが、今回ほど重荷に感じたことはない。その最大の理由は、僕がここ十数年にわたって主としてT中先生(恩師、東鴨川大学)とWK先生(亀岡大学)の研究を通じて自分なりのアダム・スミス像を作り上げてきたのに対して、T本先生が提出されたスミス像はそれと正反対のものであったからだ。当然のことながら、コメントは批判的にならざるをえない。しかし批判には賞賛の何倍ものエネルギーを要する。
聴衆には自分の立場をはっきりと誤解なく伝えたい。「No」はあくまで「No」であり「Yes」と言うわけにはいかない。「?」は「?」でしかない。しかし、自分の学力不足による誤読の可能性もゼロではない。自信たっぷりの断言は大恥のもとだ。また、どぎつい挑発的な言葉をレジュメに撒き散らすのは礼を欠く。T本先生の巨大な業績への尊敬の気持ちも大きい以上、それも併せて伝えたい。適切に言葉を選び冷静に論理を組み立てないと、T中先生のスミス理解を護教的に繰り返しているようにも受け取られてしまう。一人の独立した研究者としては、そういう印象は避けたい。T本先生が提出されたスミス像に対する違和感を、どうすれば自分の言葉で過不足なく表現できるのか、かなり苦しんだ。だからレジュメ作成に時間がかかった。
自分の発題がどのくらい的を射たものであったかはわからない。ただ、かれこれ十年参加しているこの研究会において、僕の知る限り最大級の盛り上がりを見せたことは確かだ。参加者も通常の例会の倍近い人数だったし、白熱した討論が時間ギリギリいっぱいまで続いた。
レジュメの準備の段階で僕の頭はすでにオーバーヒート気味だったが、プレゼン中で完全にオーバーヒートし、プレゼン後の質疑応答でさらにオーバーヒートした。たった半日とはいえこんなにも脳みそを持続的にフル回転させたことはここ数年なかったように思う。研究会終了後、しばらく放心状態だった。他人の言葉が耳に入ってこなかった。懇親会の鍋の味もほとんど覚えていない。
懇親会終了後、明後日ドイツに赴任する旧友M君と梅田で落ち合う。二人だけの小さな歓送会だ。彼と一緒にアルコールを体内に含むうちに、ようやく正気に戻ってきた。何だかKwansei大学という芝居小屋で「経済学史研究者」という配役を演じてきたような気分だった。本当の自分なんてどこにもないはずなのに、旧友の前の自分のほうが本当らしく感じるのも事実。果たしてそれは何も演じていないから?
All The World's A Stage...
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