Neil and Rush and Me

Neil PeartのドラムとRushの音楽をこよなく愛する大学教員の日記(雑記)帳です。

真鶴へ

明後日から3泊4日の東京遠征(ゼミ合宿3日、研究会1日)だが、1日早く京都を発ち、真鶴(神奈川県足柄下郡真鶴町)を訪れることにした。

真鶴の名前を最初に知ったのは、大映ドラマ「乳姉妹」(1985年)の舞台としてである。当時高校生だった僕は伊藤かずえさんのファンで、彼女がレギュラー出演している(悪役が多かった)大映ドラマを欠かさず見ており、そのうちの一つが「乳姉妹」であった。*1それから20数年の歳月を経て、この春、たまたま松原隆一郎『失われた景観』を読んで、真鶴が「美の町」をスローガンに掲げて景観保全に熱心に取り組んでいることを知った。懐かしさも手伝って、訪れたい気持ちが急に高まった

8月中旬にbeet研*2メンバーで伊豆合宿を行う計画が持ち上がり、参加ついでに真鶴に立ち寄る算段だったが、合宿が諸般の事情で流れてしまったため、今回の東京ツアーのついでに訪れることにしたわけだ。

観光地化されていない静かな港町で、「海の幸」の宝庫であるらしい。忙しい日常を忘れて休日らしい休日を過ごすには、もってこいの場所であるようだ。おのずと期待が膨らむ。合同ゼミでお世話になるH大Gさんに真鶴の件をお伝えすると、「東京のテレビでは、殺人・推理ものドラマの状況設定やロケ地として、頻繁に真鶴が使われているので、いつの間にか「真鶴→片平なぎさ→事件」という観念連合が出来上がってしまっています」とのこと。ふむふむ。そういう町なのか。

熱海に停車する「ひかり」を利用すれば、京都から真鶴は予想以上に近い。熱海から真鶴までは在来線で2駅、10分足らずである。京都駅8時56分発の「ひかり」に乗って、11時23分に真鶴駅に到着した。駅のホームの立て看板に「美の町」であることが謳われている。

駅前から出ているバスに乗って、真鶴半島の先端に位置する中川一政美術館を目指す。15分ほどの道中、車窓から目に入ってくる光景だけでも、十分に心が洗われる感じだ。

中川一政美術館は小さいながらもたいへん立派な美術館で、一つ一つの作品がとても見やすい。混雑していなかったこともあり、これ以上望みようもないくらいにゆっくりと鑑賞できた。紫を背景にした向日葵の鮮やかさには目を奪われた。美術館に隣接する「お林展望公園」には中川のアトリエが復元されている。

それから真鶴港へ移動する。

遊覧船の乗船時間まで1時間近くあったので、ここで昼食をとることにする。発着場のそばのお寿司屋さんで刺身とビールをいただく。ムツが特においしかった。身がぷりぷり。しかも分厚い。真っ昼間からこんな贅沢をして、何だか罪悪感でいっぱい。

ただ、お店の方の話では、高速道路千円乗り放題のため、高速で行ける遠方の町に観光客を奪われてしまい、この夏はひたすら暇であるとのこと。また、遊覧船は2名が最少運行人数なので、「待っても遊覧船に乗れないかもしれないよ」とも。客が僕1人だと休便となってしまうリスクがあったわけだが、運良く僕以外に6名の客があり、7名を乗せて遊覧船は出発する。30分ほどかけて半島を一周する。海はだいぶしけていて、横揺れがすごい。僕は楽しんだけど、年配者は体力的に大変だったかも。三ツ石海岸って二見が浦(夫婦岩)に似てるよね。遊覧船内にツバメの巣を発見する。

下船後、チェックイン可能な時刻になってきたので、宿泊旅館を目指す。地図上では至近距離だったのだが、港から見て半島の反対側にあったので、急傾斜の坂を登り降りする必要があった。「いい運動になる」と軽い気持ちで登り始めたが、これが予想以上にキツかった。荷物もあったし。

しかし、坂を登りきって目に飛び込んできた風景の美しさは格別であった。視界に無機質なリゾートマンションが入っていたら興ざめだ。写真は中川一政が愛した福浦漁港。

少しばかり道に迷って遠回りしてしまい、予定よりも30分遅れで宿泊旅館にチェックインする。旅館それ自体は古さがだいぶ目立ち、お世辞にも高級とは言えなかったが、それでも私的な旅行ではホテルでなく旅館を選びたい。畳部屋のほうが落ち着くのだ。

通してもらった部屋は真鶴港を見下ろせる絶好のロケーション。吹き抜ける風が心地よい。しかし、猛烈な睡魔が襲ってくる。これだけの急斜面を登ってきたのだから、疲れるはずだ。2時間ほど昼寝をして、風呂に入って汗を流し、質・量ともに素晴らしい魚の幸(一人前なのに船盛りで出てきた)を堪能する。

泊まった部屋から真鶴港を見下ろす。昼・夜の2ヴァージョン。

こんなふうに書くと、良いことづくしのように思われるが、人口は漸減中で、観光地化されていないぶん、「さびれている」感じは否めない。僕はこのさびれた感じが好きなのだけれど、それはヨソ者の勝手な意見で、地元の人々はそんな悠長なことを言っていられないだろう。坂だらけの町は足腰が弱ってきた老人にはひたすら不便だろう。景観保全と開発のジレンマをどう克服するべきか? これからも注視していたい。

*1:もともと貧しい漁師の娘として生まれた千鶴子(伊藤かずえ)は、出生時に一流企業会長の娘と取り違えられ、そのまま何一つ不自由のない環境で育つ。ところが、ある日突然、その出生の秘密が暴かれてしまう。自暴自棄になった千鶴子は不良化し・・・という「お約束」のストーリーである。

*2:「ビジネス倫理と経済思想研究会」のこと。共同研究の成果は佐藤方宣編『ビジネス倫理の論じ方』として公刊済み。