Neil and Rush and Me

Neil PeartのドラムとRushの音楽をこよなく愛する大学教員の日記(雑記)帳です。

2023年を振り返る

今日はまず、書き終えた104枚の年賀状をポストに投函。そして、ほぼ終日、岸本広司『バーク政治思想の展開』の「インド」章をまとめる作業に従事。昼食は百万遍の「ハイライト」にて。おそらく10年以上ぶりの来店。しばし学生気分に戻る。夕食は自宅近所の「オーライ」*1にて。

仕事納めは厳密には明日なのだが、研究室の片づけが主なので、実質的には今日が仕事納めとなる。そこで例年通りにこの1年(2023年)を振り返ることにしたい。

率直に言って、肺機能の低下に起因する体力の低下と日常生活の不自由さに悩まされ、心身ともに超低空飛行を強いられた1年であった。以前ならテキパキとこなせていた仕事がなかなかこなせない。すぐに疲れて(息苦しくなってor咳込んで)しまうからである。何事をするにも頻繁に休憩を挟まねばならなくなった。主治医の「飛行機の利用禁止」命令は解除されないままであり、4月の弘前出張は陸路ルートを余儀なくされたが、あまりに遠い&時間がかかり(+現地で襲来した黄砂に肺がダメージを受けて)、疲労困憊した。学内の大きな役職から外れ、校務の負担はいくぶん軽減されたものの、超低空飛行生活の抜本的な対策とはなりえていない。今後肺機能が好転する見込みはきわめて小さく、このポンコツな体とつきあいながら仕事を続けていくのはなかなか厳しいものがある。だが、子どもたちも小さく、まだ当分の間は家計を支えなければならない。身体への負荷を軽減できるほどよい仕事バランスを2023年に引き続き模索する2024年になりそうである。さすがに原付のエンジンで高速道路は走れない。

このような何とも言い難い情けない体調ではあったものの、研究面では、2021・2022年に手がけた仕事がようやく具体的な形に結実したこともあり、2023年は例年以上にアウトプットの多い1年になった。特に論文“Reviewing the Development of Malthus’s Ideas..."は、最初の口頭発表が2012年9月(3rd Joint Conference ESHET-JSHET, University of Corsica, Corte, France)であり、10年以上を要する大仕事をようやく完結できたということで、喜び以上の安堵を覚えた。それくらい辛く険しい仕事だったわけである。John Pullen先生、水田洋先生という、学恩巨大な2人の先生の追悼文を書く機会を与えられたことは、たいへん幸運であった。どちらも短文ではあるが、最大限の感謝の気持ちを詰め込んで、論文1本分以上のエネルギーを注いで仕上げた。心からご冥福を申し上げる次第である。

2023年の研究成果


【書籍編著】

  • 久保真・中澤信彦編『経済学史入門―経済学方法論からのアプローチ』昭和堂, 4月.*2


【書籍の分担執筆】

  • 「経済学誕生以前の経済認識の枠組みはいかなるものであったか―ポリュビオス、アウグスティヌス、マキャヴェリ」久保・中澤編『経済学史入門』第1章, pp.2-21.
  • (久保真氏との共著)「まえがき」久保・中澤編『経済学史入門』pp.i-ix.
  • (久保真氏との共著)「あとがき」久保・中澤編『経済学史入門』pp.245-247.


【論文】

  • “Reviewing the Development of Malthus’s Ideas on Educational and Parliamentary Reforms from 1803 to 1806,” Cahiers d'Economie Politique / Political Economy Papers, Number 82, pp.61-85, 1月.*3
  • (久松太郎氏との共著)「マルサス『食糧高価論』の公刊とその影響」『マルサス学会年報』第32号, pp.59-93, 6月.


【追悼論文】

  • “A Personal Tribute to John Pullen (1933–2022),” History of Economics Review, Volume. 84, Isuue 1, pp.2-3, 1月.*4
  • “Hiroshi Mizuta (1919–2023): A Life in Search of the Origin of Democracy,” Revue d'Histoire de la Pensée Economique, Number 16, pp.15-22, 12月.*5


【口頭発表(学会・国際会議)】

  • (Co-authored with Taro Hisamatsu) “T. R. Malthus’s Investigation of the Cause of the Present High Price of Provisions (1800) and Amartya Kumar Sen,” The International Workshop on Classical Political Economy 2023, Rikkyo University, Tokyo, Japan (Chair: Kuniyasu Morioka, Discussant: Alex M. Thomas), 3月15日.
  • 「経済学誕生以前の経済認識の枠組みはいかなるものであったか―ポリュビオス、アウグスティヌス、マキャヴェリ」経済学史学会第44回東北部会 (於弘前大学, 司会福田進治), 4月22日.
  • “Hiroshi Mizuta (1919-2023): A Life in Search of the Origin of Democracy,” 経済学史学会第183回関西部会 (於同志社大学, 司会西本和見), 7月8日.
  • “Hiroshi Mizuta (1919-2023): A Life in Search of the Origin of Democracy,” ヒューム研究学会第33回例会 (於関西大学), 9月8日.
  • “Hiroshi Mizuta (1919-2023): A Life in Search of the Origin of Democracy,” International Conference on Economic Theory and Policy, Meiji University, Tokyo, Japan (Chair: Masashi Izumo), 9月13日.


【書評】

  • 「Gregory M. Collins, Commerce and Manners in Edmund Burke's Political Economy」『マルサス学会年報』第32号, pp.141-145, 6月.
  • 「John Pullen, The Macroeconomics of Malthus」『経済学史研究』第65巻1号, pp.90-91, 7月.


【学会報告の司会】

  • 斉藤尚 (北海道大学) 報告「ケネス・アローの思想体系:民主主義と資本主義の範囲と限界」経済学史学会第44回東北部会 (於弘前大学), 4月22日.
  • 松永友有 (横浜国立大学) 報告「ウィリアム・べヴァリッジの過剰人口論批判」マルサス学会第32回大会 (於横浜国立大学), 7月1日.
  • 金子創 (東京都立大学) 報告「社会関係資本概念をめぐる方法論的展開について」経済学史学会関東部会2023年度第2回例会 (於日本大学経済学部), 12月2日.

研究成果とは必ずしも言えないが、科研費(研究代表者=自分自身)の申請書類の作成にもけっこうな時間を取られた。2年連続で「不採択」という結果だったので、今度こそ「三度目の正直」を切に望む。結果は来年2月末に判明予定。2024年は2冊目の単著の執筆を計画しているので、学会・研究会への参加は最小限にして、単著のほうにできるだけ集中したい。

続いて、教育面である。

座禅会(3月)、龍谷大KMNゼミとの合同ゼミ(6月)、ゼミ合宿@彦根(8月)、ヴェリタス杯参加に伴う東京遠征(12月)など、ゼミの定例行事がコロナ禍以前とほぼ同じ状態に戻り、その喜びを噛みしめる1年であった。福井県立大学での夏期集中講義も完全対面(オンライン対応なし)で実施できて、ストレスフリーかつ受講生の反応から多くの学びを得た。*6教えることの喜びを再発見できた貴重な経験であった。他方、指導していた大学院生(修士、中国人留学生)2名がともに博士課程進学試験に失敗してしまったことで、学生指導の難しさを痛感させられた。また、2010年4月から務めてきた軽音楽部の顧問を諸般の事情から11月末に辞任した。こちらのほうでも学生指導の難しさを別の意味で改めて痛感させられた。*7

研究・教育活動に伴う出張(国内のみ)は、長崎(2月)、首都圏・愛知(3月)、青森(4月)、首都圏(5月)、首都圏(7月)、福井・首都圏(8月)、首都圏(9月)、愛知(10月)、首都圏2回(12月)、のべ12回であった。

学内行政や学会役員仕事の大半から手を引いてしまったが、そんな中、唯一新たに引き受けたのが、マルサス学会の事務局(通算2回目)である。この学会なしではマルサス研究者としての今の自分はありえず、引き受け手がなかなか見つからない苦しい時期だからこそ、あえて引き受けてこれまでの恩を学会にお返しすることにした。体力が落ちているため、以前のようにテキパキと事務局仕事はこなせないが、会員に迷惑のかからない範囲内で、のんびりマイペースでやらせてもらうつもりだ。

いちばんの趣味である音楽については、メンバーの勤務状況からバンド活動を再開できず、また新しい音楽を聴く機会もほとんどなく、かつてないレベルで寂しい1年であった。*8芝居もゼミ生の所属する劇団の公演を1本見ただけ。その代わり、以前であれば音楽を聴いていた時間の大半を、語学の勉強のほうに振り向けた1年であった。ロシア語・ドイツ語・中国語の3言語の勉強をバランスよくローテーションで進めていくことも、ようやく自分のペースとして身についてきた。2024年は2023年以上に語学にも力を注ぎたい。

そして、最後にいちばん大事なことであるが、2023年は家族の誰一人として大病を患うことなく過ごせた1年であった。この幸運を噛みしめ感謝したい。

この日記の更新は、今日が2023年最後となります。2024年は1月5日に再開予定です。皆さんどうか良いお年をお迎えください。

【6264】

*1:https://tabelog.com/kyoto/A2601/A260302/26029131/

*2:http://www.showado-kyoto.jp/book/b620418.html

*3:https://www.cairn.info/revue-cahiers-d-economie-politique-2023-1-page-61.htm

*4:https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10370196.2023.2170540

*5:https://classiques-garnier.com/revue-d-histoire-de-la-pensee-economique-2023-2-n-16-varia-hiroshi-mizuta-19192023.html

*6:実は、もう1つ、東京大学からも夏期集中講義の継続を依頼されていたのだが、体力的な理由から一夏に2科目の担当は難しいと判断して、福井県立大学だけ担当することにした。

*7:劇団の顧問のほうは継続。

*8:高橋幸宏と坂本龍一がともに亡くなったのは大ショックであった。