Neil and Rush and Me

Neil PeartのドラムとRushの音楽をこよなく愛する大学教員の日記(雑記)帳です。

オーストラリア旅日記(その2:HETSA2008)

HETSA2008には僕以外に日本からは重商主義なI藤さん、福祉国家なERGさんが参加されました。僕の報告は9日の午後、I藤さんは10日の午前、ERGさんは11日の午前に組まれました。

一言でいえば、想像以上にきつい4日間でした。朝から晩まで英語漬けで、脳みそが酸欠寸前の状態になりました。学会よりは強化合宿と呼ぶほうが正確かもしれません。全メンバーが一部屋に集う方式だったので、中抜けするわけにもいかず、終始缶詰状態でした。lunchもcoffee breakも一緒です。睡魔と疲労で意識が朦朧となりかけたことも何度かありました。ただ、初日よりは2日目、2日目よりは3日目のほうが確実に英語脳(耳)は良くなっていて、学会最終日の時点ではほぼエディンバラ留学時(6年前)の英語力に戻っていたように思います。英語のシャワーを浴びて長らく眠っていた勘が呼び覚まされたようです。

僕の報告は大会前半に組まれたこともあり、まだ英語勘が十分に戻っておらず、質疑応答ではかなり苦労しました。溺れかけながらも何とか最後まで泳ぎ切った、という感じです。今回HETSAで報告しようと思った一番の理由は、この学会のレギュラー・メンバーにJohn Pullen教授という著名なマルサス研究者がおられて、彼から率直なコメントをぜひ頂戴したいと思ったからですが、その望みはかなえられました。Pullen教授はややこわもての風貌(川内康範そっくり)に反してとても穏やかなお人柄で、lunchの時間もcoffee breakの時間も僕の研究報告に対して熱心にコメントして下さいました。「この文献を足した方がいいね」「後期のマルサスについて触れたほうがより説得的な議論になるね」等々。「もう一度じっくり読みなおして、後日、メールで改めてコメントさせてもらうよ」とも。彼の知遇を得られただけでも、今回の出張の意義はあったように思います。

Pullen教授以外にも多くのオーストラリア人研究者と親交を深めることができました。スミス『道徳感情論』の研究者であるElias Khalilさんは、僕の報告に貴重なコメントを寄せて下さいました。Thomas Tookeの研究者であるMatthew Smithさんは、もともとI藤さんの友人で、しかも同世代ということもあって、たちまち親しくなれました。

もともとこの学会は理論史畑の研究者が多く集っているせいか、思想史色の濃い僕の報告はオーディエンスの関心とマッチしない部分が多く、そういう意味では盛り上がりにやや欠けましたが、対照的に、ERGさんのご報告は大盛況でした。この学会のボス的存在であるPeter Gronewegen教授(マーシャル研究の重鎮)から多くの質問がERGさんに寄せられましたが、きちんと応答されていたERGさんには感服しました。Gronewegen教授の英語はオランダ訛りがあまりに強くて、僕にはほとんど聞き取れませんでした。

毎夜、ホテルに戻った頃には、すっかりグロッキーで、シャワーを浴びてすぐ寝るだけでした。脳みそが「英語はもう勘弁して」と悲鳴をあげているので、テレビを見る気にもなれませんでした。テレビのスイッチを点けたのは電灯代わりとしてくらいですが、クリケット中継やポーカー中継が流れていたのは、「いかにもCommonwealthの一員だな」と感じました。

これまで外国の学会に何度か参加して、そのたびに思うことですが、外国の研究者は日本人と体力が違いますね。学会本体がかなりの過密スケジュールなうえ、しかもexcursionやdinnerの予定まで組まれていて*1、気を抜く時間などほとんどないのに、平然とこなしています。それは彼らが肉食だから? でも、僕はオーストラリアの重たすぎる食事に、逆に体力を奪われてしまった気がします。

*1:HETSA2008でも、9日の昼食後にParramattaの歴史を探訪するexcursionが、10日の夜にconference dinnerが組まれていました。