授業も会議もない土曜日だが大学へ。片付けるべき仕事が大量にたまっているのである。
7月8日の日記*1にすでに書いたように、秋学期の「英語演習」が不開講となったため、代替科目(特殊講義)を担当しなければならなくなった。今日はそのシラバス作成に一日の半分を奪われた。毎回作成すべき項目が増え続ける。まるで感染が止まらないウイルスのようである。
千里山の教壇に立って23年目。この科目は僕にとって新しいチャレンジである。初めて中国(の経済思想)を扱う予定だ。僕の専門はあくまでイギリスで中国ではないのだが、学部学生時代以来の中国史への関心は持続しており、とりわけ大躍進から文化大革命にかけての時期に特に強い関心がある。この時期に活躍した経済学者・馬寅初について、中国人留学生Jさん(2019年3月修了)の修論指導と並行して、断続的に10年ほど勉強してきたが*2、その内容をいまだ論文化するにいたらないので、この科目の準備を利用して論文化への第一歩を踏み出したいと思った次第だ。
院生時代までは中国語で書かれた文献もかなり読みこなせていたが、20年以上のブランクは大きく、今ではほとんどダメである。*3邦訳や邦語文献に頼っての講義準備となるので、講義内容が実際に論文化されるまでには、まだかなりの時間を要するはずである。経済学史という分野は、言葉(テキスト・クリティーク)ができないとまともな研究だと認めてもらえない。翻訳だけでは絶対にダメなのだ。一刻も早く役職等から解放されて、まとまった勉強時間を確保して、本気で中国語の勉強を再開させたいところである。
■学部・研究科 経
■授業科目名 経済学特殊講義1(上級経済学説史)
■授業形態 秋
■単位数 2
■担任名 中澤信彦
■授業方法 / Teaching Methods 講義
■言語 / Language 日本語(Japanese)
■授業概要 / Course Description
テーマ:経済学説の国際転位(マルサス経済学の国際的展開)
少子高齢化が深刻な問題となっている日本だが、隣国中国も同様の問題を抱えている。中国では、長く続いた「一人っ子政策」(1979〜2016年)と平均寿命の伸びによって、日本を追いかけるように少子高齢化が急速に進んでいる。違反者への厳しい罰則を伴う強権的・非人道的な「一人っ子政策」はなぜ導入されたのか。それはどのような現状をもたらしているのか。今後中国はどう変わるのか。これらの問題を考えることは、隣国である日本の未来を考えることにもつながっている。この特殊講義では、18世紀末〜19世紀前半に活躍したイギリスの経済学者マルサスの経済学説が、マルクス主義のマルサス批判を経由して、中国の人口政策の展開に並々ならぬ影響を及ぼしてきた経緯を歴史的に検証する。また、このようにして描かれる経済学の歴史が、現代世界・中国・日本の直面する様々な経済・社会問題を考える上でどこまで有効かについて考察する。「温故知新」の世界。ドキュメンタリー映画などの視聴覚教材を適宜利用しながら、できるだけ平易な講義を心掛けたい。
■到達目標 / Course Objectives
①知識・技能の観点 講義で取り上げられた経済学者の経済学説の概要を歴史的文脈に即して正しく理解できる。
②思考力・判断力・表現力等の能力の観点 もし彼らが生き返ったとすれば、現代世界・中国・日本の直面する経済・社会問題にどのような処方箋を書くのかを、①にもとづきながら具体的に想像し、それを文章で表現できる。
③主体的な態度の観点 現在の視点から過去を断罪するのではなく、過去の事実を単に語るのでもなく、現在の立場から過去を主体的にとらえて未来を展望しようと努力できる。■授業計画 / Course Content
第1回 イントロダクション
第2〜4回 マルサスの経済学と人口思想
第2回 『人口論』
第3回 『経済学原理』
第4回 発展途上国の貧困と「マルサスの罠」
第5〜8回 マルクスの経済学と人口思想
第5回 ヘーゲル哲学批判と木材窃盗取締法
第6回 『経済学・哲学草稿』
第7回 『資本論』
第8回 発展途上国の貧困と「世界システム」
第9・10回 マルクス主義のマルサス批判
第9回 マルクスのマルサス批判
第10回 レーニンのマルサス批判
第11〜14回 現代中国における「マルクス主義のマルサス批判」の継承と変容
第11回 孫文『三民主義』
第12回 馬寅初『新人口論』
第13回 毛沢東『人民内部の矛盾を正しく処理する問題について』
第14回 毛沢東の馬寅初批判と鄧小平の「一人っ子政策」
第15回 半期のまとめ■授業時間外学習 / Expected work outside of class
配布資料やノートを読み返し、講義内容の理解に努めるよう復習をすること。
■成績評価の方法・基準・評価 Grading Policies/Evaluation Criteria/Assessment Policy
- 方法 / Grading Policies
筆記試験に代わる論文(レポート)の成績で評価する。
論文(レポート)100%
- 基準・評価 / Evaluation Criteria・Assessment Policy
本講義の到達目標①〜③が論文(レポート)においてそれぞれどの程度達成されているか、その程度によって総合的に評価する。
■教科書 / Textbooks
講義担当者が作成した資料の配布によって進める。(特定の教科書は指定しない。)
■フィードバックの方法 / Feedback Method
時折ミニッツペーパーの記入を求める。良いミニッツペーパーは授業内で適宜紹介する。
■担任者への問合せ方法 / Instructor Contact
e-mail nakazawa [at] kansai-u.ac.jp
■備考 / Other Comments
「上級経済学説史」と銘打たれているように、2年次配当科目「経済学説史1・2」よりややハイレベルな講義内容である。したがって受講者はそれなりの覚悟が必要である。継続的な出席を欠いては講義内容の十分な理解(単位修得)は困難であろう。とはいえ、今年度春学期の「経済学説史1」(中澤クラス)を興味深く受講できた人であれば、この特殊講義の受講にさほど大きな困難は覚えないであろう。
【7465】
*1:https://nakcazawa.hatenablog.com/entry/20200708/1594214459
*2:日記によると、2009年5月14日に『馬寅初全集』全15巻を購入したようだ。https://nakcazawa.hatenablog.com/entry/20090514/p1
*3:2009年度に「テレビで中国語」を1年間視聴して、一瞬かなり思い出せたような気がするのだが、2010年10月に経済学部の副学部長職に就いてからは、語学トレーニングのようなプラスアルファの勉強は時間的にまったく不可能な状態になった。